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    クリニックの防犯・防火等の危機管理安全対策について

    2021/12/22

    クリニック開業コンサルタントで、防犯設備士、危険物取扱者、防火管理者でもある視点からクリニックの危機管理全般で考えてみました。
    全ての危機を防げるものではありませんが、できる限りリスクを減らす参考になれば幸いです。

    ❶ 建物の構造と安全性

    火災対策からみて安全性が高い物件としては入口は、非常避難口と隣接していない方が、リスクが少ないのではないでしょうか。
    また、入口と非常避難口以外にも、ベランダ等から隣の建物に逃げられる様な構造であれば火災避難の見地からはリスクが軽減されるでしょう。
    ただし、不在時に侵入されて盗難の被害にあうリスクはあがるかもしれません。

    また防火だけでなく、地震などの防災の視点からは、1981年6月以降に建築された新耐震基準適応の建物、若しくは、耐震適応工事が施された建物が、安全性が高いでしょう。

    ❷ 防犯・防火の工夫

    火災原因のトップはコンロで、第2位はたばこ、3位は、放火および放火の疑いといわれています。

    放火魔に狙われたら防ぐのは難しいですが、狙われにくくする方法はあります。
    基本は、建物の周辺や階段の影などに新聞雑誌など、燃えやすいのもを置かない事です。
    夜の不在時に、人目につきにくい立地である場合、監視センサーを付けるなどして対策しましょう。
    周りの環境が、「街灯が少ない」「自販機の周辺にゴミがたくさん捨ててある」「不法駐車が多い」このような場合は特に気を付けましょう。

    放火を防ぐポイントは、防犯のポイントと共通している点が多いです。

    医療機関における犯罪事情

    病院・医院など医療機関を取り巻く環境も悪化しています。
    他の犯罪が減っており、侵入窃盗全体も減少している中で病院・医院など医療機関の侵入窃盗は大きく伸びていることに注意が必要です。

    医療機関の被害事例

    パソコン・ノートパソコンの盗難(患者の病歴など個人情報が入っている)

    医療機関では多くのパソコン、ノートパソコンを使用しますが、こうしたパソコン・ノートパソコンの盗難被害も多く発生しています。
    パソコン内には患者カルテや個人情報も入っており、即個人情報漏洩という大きな問題に発展します。

    患者の個人所有現金盗難

    検査やリハビリなどでベッドから離れる時間を狙って、入院患者の現金や見舞金が盗まれるケースもあります。
    中には財布の中のクレジットカードがその短時間にスキミングされた事例も発生しています。

    外来患者の診察前や診察後の会計中の
    手荷物の置き引き、駐車場の車上荒らし

    混雑した受付場所や待合室などで外来患者の手荷物の置き引きが多発しています。
    又、駐車場の自動車内の手荷物などを盗まれる事例もあります。

    薬・注射針などの盗難・紛失

    病院として盗まれてはいけないものの一つに薬や注射針などがあります。
    睡眠薬や向精神薬、劇薬などの盗難件数も多発しています。

    新生児の連れ去り

    新生児室より新生児を連れ去るという被害も過去に何度も発生しています。

    恨みによる傷害事件

    治療に対する逆恨みなどによる傷害事件も発生しています。
    医師だけが狙われるのではなく看護師や患者も被害に遭うケースがあります。

    院内暴力・セクハラ

    新医師や看護師ら病院職員が患者とその家族から身体的・精神的暴力を受けたことがある病院が全国で5割に上がります。

    診察時間終了間際の強盗

    個人病院などの診察時間終了間際を狙っての強盗が多発しています。
    個人医院の場合は、個人財産、家財・貴金属・家族の命も「ドクター=お金持ち」とのイメージより、個人宅への侵入窃盗が多発しています。

    賊が嫌がる防犯対策 4つのポイント
    ❶ 音
    大きな音や
    警戒音が鳴ることを嫌う
    【例】 警報ベル、チャイム、防犯砂利
    ❷ 光
    敷地に入る際に
    明るく照らされることを嫌う
    【例】 センサーライト、玄関の外灯、庭・ガレージの外灯
    ❸ 人の目
    犯行をするための
    死角をなくしましょう
    【例】 塀や植木で敷地内を隠すことのないようにする
    ❹ 時間
    侵入時や貴重品を持ち出す
    際に時間がかかることを嫌う
    【例】 ワンドアツーロック、補助錠、金庫、面格子、(通帳と印鑑の別管理)隠し場所の分散(リスクを恐れて、侵入時間が5分以上かかる場合に諦める窃盗犯は70%と言われています)

    ❸ 火災発生時の対処

    一般的に火災で避難する場合、エレベーターで避難すると、エレベーター内で煙がこもってしまい、呼吸困難や中毒症状を引き起こす可能性があるため、火災の状況によっては非常階段を使って避難すると良いでしょう。

    被害を抑えるために消火活動をしますが、これにはリスクも伴います。
    目安として、自分の背より炎が高くなったら消火はあきらめて避難に徹しましょう。

    消化器についての基本を知りましょう。

    ガソリンや灯油、軽油そのものの火災は水で消すことができません。
    ガソリンなどは「油」であるため、これらの火災に水をかけると、火が付いたガソリンなどが飛び散り、水より軽いガソリンなどが水の上に広がり火災が広がるおそれがあります。

    消火器を選ぶポイントは、消火器がガソリンなどの火災に対応していることを確認することです。
    消火器には、どのような火災に対応できるかを示す「ABCマーク」やイラストが表示されています。
    ガソリンなどの火災には、ガソリン、灯油などの油類の火災に対応していることを示す「Bマーク」やイラストが表示されている消火器を使いましょう。
    なお、「Aマーク」は木材、紙、繊維などの普通火災、「Cマーク」は配電盤、コンセントなどの電気火災に対応していることを表しています。

    置いてある消化器の表示内容を今一度確認してみましょう。

    住宅火災で亡くなる方の4割は、一酸化炭素中毒が原因です。
    火災のときには、炎が上がる前、火がくすぶっている状態でも一酸化炭素が発生しています。無色透明で、臭いもないため、発生しても気付きにくいです。

    安全に火災現場から離れるために一酸化炭素を吸い込まないように注意する必要があります

    火災発生時の煙が横へ広がるスピードは1秒約0.3m〜0.8mで人が歩くよりも遅いですが、煙が垂直方向に昇るスピードは1秒約3〜5mと駆け足でも追いつかれてしまいます。そのため、1階部分で発生した火災から逃れようと高層階へ急いでも、防火扉などが機能していなければ煙の方が早く高層階に到達してしまうのです。

    また火災発生直後は煙が天井に張り付いた状態で広がりますが、時間が経過して煙の層が厚くなると一斉に床に向かって降りてきます。

    火災発生時に一酸化炭素中毒に陥る事態を防ぐために避難する際は、主に以下の工夫をした状態で安全な場所へ向かうと良いでしょう。

    • 濡れたタオルやハンカチを鼻と口に当てる
    • 大きく呼吸はせず、少しずつ呼吸をする
    • 決して走らずに移動する
    • なるべく姿勢を低くした状態で避難する

    など

    視界も悪くなるおそれがあるため、安全に避難するためには走らないように避難することが望ましいです。

    一酸化炭素中毒対策用のグッズで、スモークシャットアウトや、スモークパックと呼ばれる火災の際、煙に巻かれないように頭からかぶる袋のフードのようなものも安価で市販されています。
    何個か備品としてストックして置いても良いでしょう。

    地域によっては、無料で災害避難体験ができる施設もあるので、ご家族お仲間連れて体験することをおすすめします。

    【一例ご紹介】東京都北区防災センター

    ❹ 心療内科などの科目での工夫

    一般的な科目での診察は、ドクターの横に患者さんが座るケースが多いですが心療内科などの科目では、あえて机を挟んで、ダイレクトに手が届きにくくする配置も考えても良いかもしれません。
    対面で話す時も、真正面でなく少し角度を付けることで、心理的に敵対心を芽生えにくく工夫します。
    診察室の扉も、通常は引き戸の方が便利ですが、緊急避難で逃げる場面での効率を考えると、開き戸がおすすめとなります。

    ❺ 防犯設備

    防犯カメラは犯罪の抑止力としてある程度期待が持てます。
    ポイントは圧迫感を与えずに、さりげなく設置することです。
    状況によって、クリニックの安全確保とサービス向上の為、防犯カメラを設置していますと掲示するケースもあります。

    警備会社に依頼して設置してもらうものから、ネットワークを介して外からも画像を確認できる比較的安価な市販品も数多く存在しています。

    動画だけでなく、音声録音とセットで設置できる構成もあります。
    医療の説明の場面で、後から「言った・言わない」でトラブルになるケースには有効なシステムです。

    警備会社のサービスで、ワイヤレスの非常押しボタンがあります。
    診察室や受付に置くことで、対面で迫られて、電話で110番通報する隙がない場面で有効かもしれません。

    さすまたを置くことも選択肢としてあります。

    以上、まずは日ごろから防犯・防火・防災の危機意識を持って過ごすことが大切だと思います。

    この記事の筆者

    株式会社グランデュール
    寺島 徹
    (防犯設備士・宅地建物取引士)